今回取り上げるのは「広島ヤクザ戦争」です。
中谷さんが扮するのは江田省三組長。ヤクザの親分です。
「ヤクザ映画は、ほとんどが会議シーン。
組織のしがらみで追い詰められて、みんなでどうするか考える。
僕は組長役だけど、親分というより、中間管理職。
組織人の悲哀を描いたから、サラリーマンに受けた。」
中谷さんの「中間管理職」演技、ぜひご覧ください。
制作現場の裏話は、とても勉強になります。
辻監督はアイディアを受けつけてくれる方。
中谷さんも、たびたび提案したそうです。
「手を叩きながら「超面白い。今度やろう!」これは却下。
採用のときは顔が怖い。頭の中でカチンとつながった。」
多くの人たちが関係する、緊張感たっぷりの撮影現場。
人間関係で軋轢を生まないためには、細心の気配り。
プロフェッショナルたちの「現場」は、学びの宝庫です。
「これまで義理とか人情と言って美化されてきた極道社会だが、
実際は、拝金主義と暴力、裏切り、虚勢に満ちていたと暴いた」
原作のブックレビューに、このようなものがありました。
「ヤクザ映画は青春群像。登場人物もみんな若かった。
この映画も、青春ドラマとして撮っている。」と中谷さん。
欲望に向けて無我夢中の若者たちの物語。社会性はともかく、
そのエネルギーは、戦後日本ならではのものですね。
中谷「組長」が、後部座席で射撃されるシーン。
「窓ガラスを内側から、助監督がパチンコで撃ち抜く。
一発勝負。顔に当たるなよと祈りながら、バシン。音がすごい。
ところが血糊が出てこない。チューブが長すぎた。
(え、どうしたの?)その表情が妙にリアル。」と中谷さん。
ガラスの破片が髪に入り込んで、1週間後も出てきたとか。
中谷さん体当たりの演技、ぜひご覧ください。
「緊迫感あふれる会議シーンで、いきなりふられて、
渡辺裕之さんがエロ話を始めた。
周りは笑っちゃいけない。笑いを噛み殺している。
延々と続くので、どうなるんだと手に汗握って。
編集観たら、すごく真剣な会議になっていた。
エロ話しているとは、絶対わからない。」と中谷さん。
多才で、努力家で、優しさあふれる渡辺裕之さん。
本作で、偲んでみませんか。
「ムーンアフェア」は、SFホラー作品。
時間が逆戻りしていく村の夫婦の物語です。
ロケは、12月末の奥多摩。寒さとのたたかいでした。
「寒かったなあ。ホテルも寒かった。
暖房が効かなくて、お風呂も12時までとなっていて。
でも僕は、どんなホテルでも一泊で馴染む。
快適な巣作りができる。」と中谷さん。
多様なホテルに順応する心構えを、中谷さんから学びましょう。
「禁断の扉」では、不倫相手役の中谷さん。
「ドアの入り方でわかる。来なれている。
ワクワクしていない。ぶらっと返ってくる。日常感。
歯磨きも、僕だけ電動。ちぐはぐ感がリアル。
ベッドシーンでは、こまかい指示はない。自由演技。
予定調和を壊す。ジャズ的に外す。」と中谷さん。
リアル感の大敵は、予定調和なのですね。
「新人さんは、まじめにセリフを覚えてくる。
でもベテランは、それほどセリフを覚えてこない。
現場にあわせて対応が効くようにしているから。
崩すことで、上手に緊張感を醸し出す。
それでいて、意図的にNGを出して、周囲をなごませる。
ピークがそこに来るようにしている。
だから、仕上がりは完璧になる。」と中谷さん。
ベテランの仕事は、バッファになることなのですね。
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