「紫式部は、下級貴族の出身。お勉強の家だった。
頭が良くて、美貌もあったが、女性だから出世はできない。
そこで、フォロワー数を取りにいった。
みんなが何を求めているか、考え抜いた。」と中谷さん。
古風と新しいタイプ、一途と移り気。権高と控えめ。
さまざまなタイプの女性を登場させて、
感情移入できる推しキャラを、物語に散りばめる技巧。
「源氏物語」で、紫式部の才能にふれましょう。
源融は、皇位継承権を持つ、嵯峨天皇の皇子でした。
「源融は権力欲が乏しかった。文芸が好き。
あの時代の権力闘争のぐちゃぐちゃが嫌になった。
政治をあえて捨てて、文化に行った。」と中谷さん。
権力闘争に破れて、須磨に流されていた光源氏。
その後、復権した光源氏ですが、心境には大きな変化が。
しだいに内省的になり、出家を志すに至ります。
源氏物語の第二部は、第一部とだいぶ趣を異にします。
人生の無常を覚り、出家を志す光源氏。
その引き金になったのが、妻・女三宮の不倫。
思いを寄せる柏木の子供を身ごもってしまったのです。
さらに、柏木は光源氏が長年引き立ててきた青年。
二重の裏切りにあった光源氏は、因果応報と受け止めます。
「シーズン2で、光源氏は報復されている。」と中谷さん
シーズン2の味わいどころは、光源氏の内的成熟なのです。
第三部は、薫とライバル匂宮、そして浮舟の三角関係の物語。
薫は、光源氏の息子とされていましたが、じつは妻の不義の子。
その出自に悩み、また持ち前の中二病的資質で薫は迷走します。
「自省的な薫をよそに、匂宮はごんごん行く。
嫌われていても、なれている男がモテてしまう。
これは、不都合な真実。」と中谷さん。
浮舟の女心、男性にはわかりにくいかもしれませんね。
源氏物語は、教養なくしては読めないといいます。
また、教養を得るために、読んだともいいます。
「雲は、少女マンガでいうところの花。月はアイコン。
和歌、漢詩、年中行事。貴族生活パーフェクトガイド。
後の武士たちは、源氏物語で教養を補った。
ファスト教養、それが源氏物語だった。」と中谷さん。
教養、叡智、ノウハウ、美意識、そして価値軸。
紫式部は、平安時代の中谷さんだったのかもしれません。
いまの私たちには想像つかないのは「血」。
血脈、家柄に対する意識は、私たちの想像が及びません。
「貴族にとっては、子孫繁栄が至上の価値。
だから、子を産むこと、つまり恋愛が仕事だった。」と中谷さん。
恋愛といえば、一種の娯楽、道楽というイメージの現代人。
でも、子をなし子孫の繁栄を至上命題とする人たちにすれば、
それは最も尊いいとなみだったと見ることができます。
源氏物語は、そういう意味で「ビジネス書」だったのです。
いつの時代も、仕事と恋愛は人間修行の両輪だったのですね。
「源氏物語は、展開が速い。1話でかなり進む。
責任を感じて入水自殺しようとした浮舟は、
その後、出家して尼寺に入る。
それを聴いた匂宮は、人をやって確かめると、
浮舟は「一尼でございます」。ふわっと、これで終わり。
長編ものには、変な完結はいらない。
源氏物語は、フランス映画。」と中谷さん。
源氏物語で味わうのも「余韻」だったのですね。