「画家が売れるかどうかは、才能じゃない。
ピカソのように、自分で売り方を身につけた画家もいる。
ゴッホのように、売ってくれる人を得た画家もいる。
ただ、ゴッホは生前1枚しか売れなかった。」と中谷さん。
芸術志向の人が陥りやすいのは、才能主義。
いいものを創っていれば、売れるというのは誤解です。
売る技術までが問われているのが、アートの世界なのです。
ヘレーネ・クレラー=ミュラーは、大金持ちの令嬢。
実業家の夫・アントンの支援や美術家庭教師のブレマーの助言を得て、
ヘレーネは、アートの世界に魅了されていきます。
「結婚記念日に、アントンがヘレーネに贈ったのが『悲しむ老人』。
ジョークのつもりでプレゼントしたゴッホの絵に、ヘレーネは感動。
なにこれ! 素晴らしいとなった。」と中谷さん。
このゴッホ体験が、その後のコレクションにつながったのです。
何不自由ない生活を送るヘレーネにも、悩みはありました。
「孤独なゴッホに、自分の孤独を重ね合わせた。
相通じるものを感じた。波長がドンピシャで合った。
ゴッホは、伝えたい気持ちが大量にあった。
彼は絵の裏に手紙を書いた。絵が手紙だった。
ゴッホとヘレーネの文通が始まった。」と中谷さん。
一人のインフルエンサーで、ゴッホは蘇ったのです。
パリ万博、エッフェル塔の建設、そしてベル・エポック。
フランスは「良き時代、美しき時代」を迎えていました。
女性の地位が向上し、労働者の待遇が改善された時代。
そこに登場したのが、ミシア・セール。
芸術家のパトロンとして、パリで芸術サロンも主催しました。
「無名芸術家を応援した。評価より、応援で絵を買う。
そして、そのお礼としてミシアを描く。」と中谷さん。
ミシアは、まさにベル・エポックの「女神」だったのです。
作家・ポール・モランは、ミシアをこう評しています。
「天才の収集家で、彼らはすべてミシアを愛していた。
ミシアが会おうと思うには、才能を持たなくてはならない」
そんなミシア自身も天才で、芸術家一族の出身者。
「お父さんは、ポーランドの有名な彫刻家で美大教授。
お母さんは音楽一家の出で、有名なチェリストの娘だった。
お祖父さんから手ほどきを受けて、ピアノに親しみ、
リストの膝でベートーヴェンを弾いた。」と中谷さん。
天才は、天才との相互作用から生まれるのですね。
ピカソの「天才」は、その眼力にあったようです。
「才能あるライバルだらけ。ピカソはビクビクしていた。
ピカソは目利きだったから、ライバルの実力がわかる。
マティスに勝てないとわかると、すぐに絵を持ち帰った。
『売れているか、売れていないかだよ』と言いながら、
モディリアーニを一番評価していたのもピカソ。」と中谷さん。
ライバルの強みを知ることで、自分の強みを発見できるのですね。
ミシアの人生を語る上で欠かせないのが、ココ・シャネル。
「婚約者を亡くし、失意のココ・シャネルを支えたのがミシア。
シャネルが唯一リスペクトしていたのもミシア
『大丈夫、あなたは天才。あなたの時代が来る』
ミシアの言葉で、シャネルは勇気づけられた。」と中谷さん。
生涯にわたって、麗しい関係を気づいた二人。
シャネルのオードゥ・パルファム「ミシア」。
ここに、その麗しい関係が受け継がれています。
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