フォロワーを増やして、自己肯定感を高めたい。
「いいね」をもらって、他者承認欲を満たしたい。
「他者評価」が「自己承認」になっているのが現代のSNS社会。
この状況を、100年前の前衛芸術家たちは、どのように見るでしょうか。
痴情のもつれから、恋人に拳銃で撃たれたムンク。
モデルを片っ端から愛人にして、妻を死に追いやったロセッティ。
いまなら「非常識」と罵られたり、「不倫」として糾弾されます。
でも、そんなケタ外れな人だからこそ成せる仕事があることも事実。
「庶民」のモノサシでは、芸術は理解できません。
「芸術」を鑑賞するための指標と視座、中谷さんから伺いました。
★こんな方にお奨めです♪
□ジブリの世界の深いところを知りたい方。
□「ムンク」の芸術を理解したい方。
□「ロセッティ」の芸術に興味のある方。
展覧会の絵巻物は、広げられた状態で展示されています。
でも実際には、両手の間で手繰りながらワクワクドキドキ。
絵巻物は、紙芝居のように読まれていたのでした。
「伴大納言絵詞の見どころは、絵の具が剥げているところ。
当時の女官たちが『真犯人』を指差すうちに落剥した。」と中谷さん。
美術館の展示から、当時の情景を読み取るために必要なのは、教養。
中谷さんの「教養論」は、そんな想像力の鍛錬を目的としているのです。
高畑勲は、日本アニメの大功労者。ジブリでの活動で知られています。
「『ホーホケキョ となりの山田くん』は、世界がびっくりした。
僕もびっくりした。つい、『いいの?』と言ってしまった。
でも、あれこそ鳥獣戯画のタッチ。輪郭線がつながっていない。
電信柱が1本あるだけで、サラリーマンの帰宅と読み取れる。
これが日本人の抽象性であり、絵巻物以来の伝統。」と中谷さん。
「風の谷のナウシカ」や「火垂るの墓」に感動した方、本作もぜひ!
映画のCGは、わざとリアルにしすぎていないのだそうです。
その理由は、リアルになるすぎると、不気味で引いてしまうから。
「超リアルにすると、気持ち悪い。不気味になる。
マネキンも、超リアルにすると、服が売れなくなる。
ペッパーくんも、あえてロボット感を出している。」と中谷さん。
文章でも、「正確」だから伝わるとは限りません。
同様に、人の心に訴求するためには、「デザイン」が必要。
芸術の本質は、心に伝わるかどうかにあるのでしょうね。
中谷さんの芸術講義には、時代背景の解説が不可欠です。
それが、芸術家の理解の奥行きをもたらしてくれます。
「シュールレアリストも科学者も、ナチスが追い出した。
ヨーロッパの人材が、こぞってアメリカに移り住んだ。」
ダリ、エルンスト、シャガール、そしてマン・レイ。
のちにアメリカで花開く「アート」は、彼らが撒いた種子から。
人物像と歴史的背景で、芸術は、より味わえるのですね。
ムンクは、「死」と「不安」を描いた作家として知られています。
彼は、厳格な軍医の父を持ち、厳しく育てられました。
そのせいか、恋愛で屈折し、初めての恋愛相手は、年上の人妻。
「拳銃暴発事件を起こした恋人のトゥラ・ラーセンは、元々パトロン。
芸術家のパトロンは、お金持ちの未亡人に多かった。
古典好きの男と違って、女性は古典にとらわれない。
無名の才能を育てたいという母性もある。」と中谷さん。
男性にとって女性との出会いは、一生を決めるものなのですね。
ムンクは、拳銃暴発事件をきっかけに、精神的にゆらぎ始めました。
「古典は理想を、印象派は見たままを描いた。ゴッホが初めて内面を描いた。
『ひまわり』は、ひまわりという植物ではなく、自分の内面を描いたもの。
南のゴーギャンと北のムンクが、ゴッホの系譜を継いだ。」と中谷さん。
ムンクの代表作として、あまりにも有名な「叫び」。
描かれている人物が抑えているのは「耳」。
苦しめる幻聴に、耳をふさぎたいムンク自身が描かれています。
ムンクの絵特有の「非常識」は、彼自身の精神の「ゆらぎ」だったのです。
「ロセッティは、傷つきやすいイケメン。」のロセッティ、
その女性関係は派手で、妻エリザベスがありながら、
モデルを務めたファニーやジェーンを愛人にしてしまいます。
そんな人間関係のなかで精神を病んだ妻エリザベスは、
薬物中毒で、32歳という若さで亡くなってしまいました。
それを嘆き、深く悲しんだロセッティ。
妻を悼んで「ベアタ・ベアトリクス」という名作を遺します。
愛妻家なのか、それともモラハラ夫なのか。
芸術家は「モラル」という尺度では測れるものではないようです。
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