国家に歯向かう海賊ラジオ局。壮大なトリックを仕込む詐欺集団。
いけない大人――ワルの魅力は、映画の見どころの一つです。
「いけない大人を通じて、主人公は成長する。
僕が観る映画は、観る人が違えば、違う映画。
ネタバレなんて関係ない。筋ではなく、劇を観よう。」と中谷さん。
「筋」とはストーリー。では、「劇」とは何でしょうか?
中谷さんの言葉を借りれば、「劇とは、主人公の成長の物語」。
ワンシーンに込められた人間の成長物語。これを味わい尽くす。
「劇」の鑑賞法、中谷さんから教わりました。
★こんな方にお奨めです♪
□ネタバレでがっかりしてしまう方。
□「筋」ではなく「劇」を味わいたい方。
□「いけない大人」体験が少ない方。
ご紹介する映画、1本めは「パイレーツ・ロック」。
60年代のイギリス。海上に停泊する船の海賊ラジオ局。
濃いDJたちが、うぶな青年を大人に成長させていきます。
「常識の外にいるのがワル。自由な人たち。
『そんなの、ありですか』という、いけない大人に会おう。」
なかなか接点の持てないロックな大人たち。
「異界」体験で、古い殻を破っていきましょう。
DJのなかでも、とびきりモテるのが、マーク。
マークは、DJにしては言葉が少ない、というより無口。
「モテモテの秘密を、マーク本人に尋ねてみると、
『何も言わないことだよ。そしてひと言。どう?』。
世の中には、モテる男とモテない男がいる。
どちらに感情移入するかで、モテるかどうかが決まる。」
「パイレーツ・ロック」で、モテの極意を体得しましょう。
「パイレーツ・ロックは、セリフがいい。」と中谷さん。
「両足の間に、風を感じているかい?」
「臨時ニュースです。ただいま『打ち上げ』に成功しました」
まじめな大人なら、眉をひそめるセリフもポンポンと。
「銃弾では誰かが死に、爆弾では大勢が死に、暴力では愛が死ぬ」
「夢が曲を作り、曲が奇跡を起こす」
ふつうの大人なら、紡ぎ出せないようなセリフも折々に。
こんなセリフを、パッと口に出せるようになりたいですね。
今回2本めはフランス映画「エンジェル、見えない恋人」。
透明人間として生まれた主人公エンジェル。
彼の存在を「発見」したのは、盲目の少女マドレーヌ。
やがて2人は恋に落ちてゆきます。
その後、マドレーヌは手術を受けて、視力を取り戻しました。
彼女と、どう向き合えばいいのか――エンジェルは悩みます。
「マドレーヌは目隠ししてデートした。列車に乗って湖畔の小屋へ。
ベッドシーンも目隠し。とても、おしゃれ。」と中谷さん。
フランス映画の「おしゃれ」は、こういうところにあるのですね。
「テキサスの平原を、霊柩車が爆走している。
こういうタイトルバックを見逃してはだめ。伏線がある。
伏線は、2回3回観ただけでは気づけない。」
「西部劇の銃声は、パーン パパーン。
パーンパーンでも、パンパンでもない。」
こういう細かな気づきは、中谷さんならではのもの。
よきナビゲーターを得て、私たちの観方も上達しますね。
一世一代の名勝負。破れて、成長したのはギャンブラーでした。
帰宅するや、彼は財産目当てで娘と結婚しようという青年に、
「広い世間を見て歩け。経験を積んで、自分を磨け。
そして真の伴侶を見つけろ」と一喝し、窓から逃がしました。
「ストーリーは筋。筋を観るか、それとも劇を観るか。
劇は、主人公の成長物語。人間のドラマを観よう。」と中谷さん。
人間の成長を噛みしめるのが、映画というものなのですね。
「西部劇で、ボヤボヤしていてはいけないことが学べる。
勝ったつもりでいると、騙される。それがギャンブルというもの。
ギャンブルをやるなではなく、ギャンブルというものを学ぶ。
映画は、生きるための教科書。」と中谷さん。
私も、この映画の「筋」は楽しく観ることができました。
でも、「劇」ともなると、中谷さんの解説は不可欠でした。
映画修行を積んで、自分で「劇」を見出せるようになりたいです。
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